〜2013世界チェス選手権 中盤戦〜

By Shin Uesugi

皆さんこんばんは!世界チェス選手権は8ゲームが
終わり、それを持って中盤戦が終了しました!
第8ゲームが終わった次の日(日本時間の今夜)は
レストデー。選手達が終盤戦に備えている間に、
中盤戦の激闘を振り返ってみましょう!

ちなみに、世界選手権の事前情報はこちら
序盤戦(Game1-4)の考察はこちらに書いているので、
それらも合わせてこの記事をお楽しみください。

GAME 5

First Blood

序盤戦では白番でアドバンテージを取ることに
失敗したカールセンは今回、少し趣向を変え、
イングリッシュ・オープニング(1.c4)でアナンドに挑みます。
そして4手目には、試合は1.d4から派生する
セミスラブの1変化にトランスポーズしました。

この変化には、白がポーンを捨てて黒キングを
攻撃する鋭い手順が存在するのですが、
カールセンはそのハイリスクな手順は選択せず、
早めにクイーンサイドにキャスリングをすることに
よってキングの安全を確保します。そして
15手目に両者のクイーンが交換され、
試合はドローっぽいエンドゲームに。

とはいえ、ドローっぽいエンドゲームでは一瞬の油断が
命取りです。まずクイーンサイドのポーンを犠牲にして
キングサイドのポーンを掠め取ったカールセンは、
強力なeファイルのパスポーンを手に入れます。
そして王者アナンドの45...Rc1+?を正確に
咎め、ポーンアップのルークエンディングに突入。



このルークエンディングは、セオリーでは白勝ち
ですが、世界選手権のような緊張感のある
試合では何が起こるか分かりません。しかし
エンドゲームの鬼、カールセンにとっては
簡単すぎたようです。あまり時間を使わずに
aポーンをどんどん進め、58手目でアナンドを
投了に追い込み、貴重な1勝を挙げました!


45手目でブランダーをしてしまったアナンドにとっては、
悔やんでも悔やみきれない試合だったでしょう。
試合後のインタビューで45...Ra1!を指さなかった
理由について聞かれたようですが、その理由は
「ルークエンディングがここまで難しいとは思わなかった」
からだそうです。一見簡単に見えても、実は難しい。。。
チェスの奥深さをよく表した1局だったと思います。

GAME 6

あきらめたらそこで試合終了ですよ・・・?



カラーバランスを整えるため、アナンドは6-7ゲームを
両方白番で指すことになります。マッチをイーブンに
戻すため、この試合でのアナンドのプレパレーションには
観戦勢の注目が集まりました。そして試合が始まり、
アナンドが選んだのは初手e4!攻撃的な初手で、
勝ちを狙うにはもってこいですが、アナンドは第4ゲームで
カールセンのベルリンの壁を崩すことができていません。

カールセンは3...Nf6とベルリン・ディフェンスの
メインラインを指す気満々でしたが、アナンドには
秘策がありました。その秘策とは、4.d3と突く
d3ルイロペス!e4のポーンを守ることによって
黒からのNxe4から始まるクイーン交換の手筋を避け、
最強の駒、クイーンを盤上に残して勝ちを目指します。

アナンドが10.Bg5と指した時点で、彼が心理的に
優位に立ったのが明らかになりました。余裕たっぷりに
席を立ったアナンドに対し、アナンドが過去に指した
ことのない手を見たカールセンは、20分程長考。
このままアナンドが優勢に試合を進めるかと
思われましたが、世界ランク1位のカールセンの
盤上での閃きは凄まじいものがありました。


ピンが悩ましく、ここでカールセンが長考。

カールセンは、まず13...Nb8から14...Nbd7と
8段目を経由したナイトのマヌーバリングを見つけた後に、
15...Qe7から17...Qe6と、h4-d8の斜線のピン
からクイーンを逃がします。そして21手あたりから
駒交換が行われた結果、カールセンは何事もなく
イコアライズ(互角化)することに成功。この試合は、
誰もがドローで終わると思っていたことでしょう。

中盤で少しカールセンが良くなりましたが、試合は
またもやルークエンディングに。アナンドはポーンダウン
になりましたが、カールセンはhファイルに孤立
ダブルポーンを抱えており、見るからにドローっぽい
局面になっていました。しかし、カールセンの目には、
常人には考えられないようなアイデアが映っていました。

fファイルにパスポーンを作るため、カールセンは
58...Ke3からf4までポーンを進めます。そして
60...h3としてアナンドの守りの要、g2のポーンを
hファイルにおびき寄せ、絶妙手61...Rg6!!を
放ちました。そしてfファイルのパスポーンの昇格を
止められなくなったアナンドは、67手目で投了


誰もが目を疑いました。序盤中盤終盤、隙が
無く、絶対的な安定感を誇るアナンドが、
前日に続きルークエンディングで完敗。
カールセンは、これで2ポイントリードと、
世界チャンピオンの座に大きく近づきました。

この試合にはもう一つ、考えさせられることがありました。


カールセン(黒)が59...f4と指した局面

試合後のインタビューでは、アナンドは
この時点で白負けだと語っています。そして
インタビュアーの「60.b4はどうか?」という問いに
対し、両者とも「黒のプロモーションが早く、
そんな遅い手では間に合わないだろう」との意見。

しかし、チェスプログラム(うちのstockfishさん)は、
60.b4!!でドローだと指摘しています。もちろんその
手順を読み切るのは至難の業ですが、もし
アナンドが「この局面はドローだ。最善手を
探してくれ」と事前に言われていたら、60.b4!!を
見つけることができたかもしれません。スラムダンクの
安西先生曰く、あきらめたらそこで試合終了です。
アナンドの本当の敵は、対戦相手のカールセンではなく、
絶望的に見える局面で諦めてしまう自分自身
なのではないでしょうか。

GAME 7

失われた自信

レストデーを挟んだ第7ゲーム。アナンドは、この試合を
含め、後3回白番が回ってきます。2点ビハインドの
状況では、何としてでもここでポイントを取りたいところ
でしょう。注目のオープニングは、第6ゲームと同じ
d3ルイロペス。しかし、アナンドが5.Bxc6とナイトを
取ったことで、局面が大きく動きました。

ビショップはナイトよりやや強く、少しだけ駒損する手を
指したアナンドですが、黒にダブルポーンを作らせる
ことで局面のバランスを保ちます。そしてゆっくりとした
試合展開でカールセンを押し潰そうという姿勢を
見せましたが、カールセンは特に問題なくイコアライズに
成功。駒交換が進み、32手目でレペティションが
成立したことから、この試合はドローとなりました。


ファイティングスピリットが見られたGame3-6の
4試合と比べ、打って変わって短手数ドローとなった
第7ゲーム。2点ビハインドで数少ない白番を
最後まで指し切らず、僅か32手でドローに
してしまったアナンドには、何か異変が起きたのかと
思わざるを得ません。それだけ前2試合のショックが
大きかったのでしょうか。。。

GAME 8

ここでベルリン!?

第7ゲームを白番であっさりとドローにしてしまった
アナンドは、王座を死守するためには黒番で
勝ちを目指さなければいけない状況に陥って
しまいます。カールセンが今回のマッチで初めて
指す1.e4に、アナンドが運命を託したオープニングは
ベルリン・ディフェンスでした。

堅く、安定感のある定跡なのは確かですが、
積極的に勝ちに行くものではありません。
もしアナンドが本気でこのマッチを制したいのであれば、
シシリアン・ディフェンスのナイドルフ変化のような、
鋭いオープニングを選択した方が良かったのでは
ないでしょうか。

そして試合はほぼ対称的なポーンの形から、
次々と駒を交換する展開に。28手終了後に
両者ともポーン以外の駒が全てなくなり、そこから
5手指された33手目で合意ドローとなりました。


既に大きくリードをしてるカールセンにとって、ここでの
ドローに不満はまったくないでしょう。しかし、激しい試合を
望んでいる観戦勢に取って7、8ゲームの試合内容、
そして勝ち星が必要なアナンドのオープニングチョイスや、
短手数ドローで妥協する姿勢は不満が残るものでした。


世界ランク4位、GM Hikaru Nakamuraは、
第8ゲームの試合内容に関して厳しくツイート


現在マッチは5対3と、カールセンが大きくリード。
6.5ポイント先取した方が勝ちなので、早ければ
11月22日に新しい世界チャンピオンが誕生する
可能性もあります。アナンドには、残りの試合で
負けを恐れず、果敢に勝ちを目指してほしいところ。

世界選手権があまりに大きいイベントなので
忘れられているかもしれませんが、日本では
11月23-24日に2013松戸チェスクラブ選手権
名古屋では11月24日に中部快速オープン
行われます。松戸選手権のエントリーリストには、
ジャパンオープンで全勝優勝を果たした南條遼介さんや、
元全日本チャンピオンの馬場雅裕さんら強豪が
名を連ねており、激戦になるでしょう。

2013世界選手権の中盤戦ダイジェストと、
今週末の大会宣伝は、これくらいで終わりに
したいと思います。では皆さん、また次の記事まで、
Good Luck and Have Fun!!

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