〜Post Mortem: 効果的な検討のススメ〜

By Shin Uesugi

こんにちは!今回はチェスをプレーする上で、避けては通れない
局後の検討にスポットライトを当てた記事を書いてみました。
Shinの本拠地アメリカでは試合後に検討をしないことがよくありますが、
日本では常に検討するという環境ができているように思えます。
局後の検討は必ずプレーヤーの棋力を向上させてくれますが、
効率的な検討をすることによって、その後の伸びが変わってくるでしょう。
今回のガイドの対象は将来的に強くなりたい、レーティング2000以下の方達としています。
ちなみにタイトルのPost Mortemとは、チェスの感想戦のことです。

~目次~

1. 検討とは?

2. プラン

3. 検討すべきポジション

4. 逆算

5. 実際に検討してみよう!

6. 勝った試合でも学ぶべき

7. 最後に

1. 検討とは?

まず知らない方のために、、、検討とは一体どんなものなのでしょう?。
検討とは、「対局後に開始から終局まで、またはその一部を再現し、
対局中の着手の善悪や、その局面における最善手などを検討することである。」
これは丸々ウィキペディアから取ってきましたが、これが一番分かりやすいと思います。
一つ付け加えるならば、「対局中の着手の善悪」の部分に「プラン」を付け加え、
「対局中の着手とプランの善悪や、、、」と定義したいと思います。
検討は対局した二人、たまに観戦者などが混じってすることになりますが、
相手が試合中どんなことを考えていたのかは非常に重要なので、
たとえ自分が負けた試合であってもどんどん自分の意見を言いましょう。

2. プラン

チェスプレーヤーは、善悪は別として、常にプランを立てながら
指し続けなければいけません。チェスでのプランとは、簡単に言えば
自分のポジションを良くするためのアイデアです。正確なプランを積み重ねることによって、
最終的に勝利するというのがチェスというゲームの本質なのです。
悪いプランとは、局面を良くすると思ったプランが実は局面を悪くしてしまったものを言います。
ここでチェスのプランの例を少し書いてみます。

  • キャスリングをする。

  • 孤立ポーンを狙う。

  • オープンファイルを作りルークを侵入させる。

  • パスポーンを作る。

  • 相手のキングの守りを薄める。

  • チェスの手とは、プレーヤーが立てたプランをチェス盤の上で具現化するものと考えてください。
    つまり、検討では手の善し悪しも大事ですが、それ以上に試合の中で立てたプランが
    正しいものであったのかというのを検証することが重要です。
    チェスの試合では、常にポジションが変わり続けています。なので一手一手ごとに、
    その局面に合わせたプラン作りをしなければいけません。


    3. 検討すべきポジション

    効率的な検討を行うためには、検討すべきポジションを
    はっきりと分かっている必要があります。短手数の試合ならまだしも
    試合中に出てきた全てのポジションを検討するのは時間がかかりすぎるし、
    大会の試合の合間に検討しているのなら、次の試合で疲れて
    すぐ負けてしまったなんてことになりかねません。
    検討すべきポジションを厳選し、把握することは時間短縮に繋がり、
    余分な時間を使って重要なポジションを深く検討することもできます。
    これはShinが先週末に見学した千葉チェスクラブの例会での試合です。


    プレーヤー達のプライバシーを尊重して、名前をモザイク処理しています。
    この試合の検討の様子をShinはずっと見ていましたが、
    序盤のあたりはパパッっと指していって、プレーヤー達が本格的に
    検討を始めたのは16.Qxd4の辺りからでした。ですが、Shinはこのポジション、
    及びここから進んだポジションは真っ先に検討すべきポジションではないと思います。

    4. 逆算

    では何故上記のポジションは、真っ先に検討すべきではないのでしょうか?
    ポジションを見れば分かると思いますが、あの場面では白は既にポーンダウンで、
    勝ちを目指す局面というよりは劣勢から引き分けに持ち込みたいというポジションです。
    このようなポジションを検討することによって、例えば逆転の仕方などを身に付けることは
    できるかもしれませんが、逆転のしにくいチェスでは如何にして
    劣勢に陥らないようにするということが重要です。
    特に2000以上を目指すとなると、簡単に劣勢になるようではいけませんよね。
    ではこの試合での検討すべきポジションはどこだったのでしょうか?
    検討すべきポジションとは、プレーヤーが「悪いプランに基づいて指し始めた、
    またはプランを見失った時の」ポジションです。勝敗が付いた試合では、
    検討すべきポジションを見つけるのは比較的容易です。
    これを見つける方法とは、直接的な敗因から逆算していって、悪いプランとは
    何だったのかというのを検証していくものです。

    5. 実際に検討してみよう!

    この試合では、白はd4のポーンが落ち、そのままズルズル進んでいって負けていきました。
    つまり直接的な敗因は、「d4のポーンが落ちたから」ということですね。
    では何故d4のポーンが落ちてしまったのでしょう?ポジションを少し戻します。。。


    ここで14.e4と指してしまったせいで、黒の14.dxe4からd8のクイーンの道が開き、
    結果的にd4のポーンを取られてポーンダウンになるという事態に陥ってしまいました。
    白の「e4とポーンを突いて中央を開く」というプランが間違っていたということですね。
    ではもう少し巻き戻してみましょう。e4突きを準備していた手はありませんでしたか?


    この手ですね。一見自然に見えますが、e4突きが誤っているアイデアなので、
    e4と突かなかったのであればただの手損になってしまいます。
    ではここで白がアドバンテージを取るためには、どのようなプランが必要だったのでしょう?
    例えばNe5-Nxc6から、cファイルにプレッシャーをかけるというのはどうでしょうか?


    このポジションでは黒のc6のポーンが弱く、白にはそれを狙う楽しみがあります。
    黒はそれによってできたオープンファイルを使い...Rb8などとしたいのですが、
    f4にいるビショップによってそれを防がれてしまっています。
    ということは、この手もおかしかったということですよね。


    e5の地点のコントロールを放棄し、b8の地点にも利かなくなっています。
    では白がNe5とするプランに基づいて指された場合、黒はどう指すべきだったのでしょうか?
    そう考えると、黒からも不自然な手が出ていることが分かります。


    Shinはこのようなポジションでどう指すべきかといった知識があるのですぐNe5-Nxc6
    と指すプランが浮かびましたが、前にも言ったように、重要なのは検討すべきポジションを知ることです。
    何故なら検討中に正しいプランに辿り着かなくても、家に帰ってデータベースなどを使い
    強いプレーヤーはどう指しているのかを見ることで、正しいプランを知ることができるからです。
    このように敗因となったプランから逆算することによって、指すべき手は何だったのか、
    どんなプランを使うべきだったのか、そして正しいプランを指した時に相手はどう指すべきか。。。などが見えてきます。


    6. 勝った試合でも学ぶべき

    局後の検討は、負けたプレーヤーのミスばかりが目立つことが多いです。
    なので勝ったプレーヤーより負けたプレーヤーの方が学ぶことが多いと
    感じるかもしれませんが、そんなことは全然ありません。
    これはShinが昨日指した一局です。


    このオープニングは
    6/18の試合解説と同じものですが、
    それからの相手の応手がより鋭く、20.Rc2と指された後にShinは有効なプランを
    見つけることができませんでした。普段ならGMに勝ったということで気を良くして眠れるんですが、
    はっきり言って相手のRg1というブランダーがなければ負けていたということが
    引っかかって、寝る前にそのポジションを頭に浮かべていろいろと改善策を模索していました。
    勝った試合を検討していたとしても、何か引っかかっていて、「あれ、少し悪くなったか」
    と思ったことが試合中に一度でもあれば、気が済むまでそのポジションを検証してみてください。

    7. 最後に

    今回のガイド、いかがでしたか?チェス以外のものでも、自分が犯した
    ミスを改善して、次のチャンスで生かすというのは重要なコンセプトだと思います。
    負けた試合は見たくないといった人もいるかもしれませんが、上へあがるためには
    それを糧にする必要があります。高レートのプレーヤーは検討の仕方も上手なので、
    大会などでそれを見る機会があれば、そこから何かを学びましょう。
    試合に勝ったことで満足するのではなく、常にハングリー精神を持ちながらチェスを
    することができるなら、レーティング2000に到達するのも難しくないと思います。
    2000以上になると、引き分けなども多く直接的な敗因を見つけにくくなってきます。
    それは今回のガイドでは対象外となっていますが、また機会があれば書いてみるかもしれません。
    では皆さん、また次のガイドまで、Good Luck and Have Fun!!

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