〜Zwischenzug: チェスの常識の裏に隠された落とし穴〜

By Shin Uesugi

皆さんこんにちは!ガイド第2弾はZwischenzug、別名in-between-moveを扱っていきたいと思います。
今回のガイドは前回より少しレベルが高いですが、自分なりに分かりやすく書いたつもりです。
ちなみにShinはZwischenzugの正しい発音を知りません。興味がある方は自分で調べてみましょう。

~目次~

1. Zwischenzugって何?

2. チェスの常識

3. Zwischenzugの特徴

4. 見落としやすいが故に鍛えにくい

5. 別の常識にも応用

6. まとめ

7. 最後に

1. Zwischenzugって何?

この言葉を聞いたとき、皆さんはどんなものを思いつくでしょうか?


ここでは黒の手番ですが、Ke6、またはKc6とどちらの手を指しても白キングに侵入を許してしまいます。
できればパスをして白に手番を譲りたいほど。しかしそれはチェスのルールに反するので、黒は手を指さざるを得ません。
つまりこのようなポジションがZwischenzug。。。ではないですよ
よく似ていますがこれは"Zugzwang"という別の、そしてもっと有名なチェス用語です。

ではZwischenzugとは何なのか?Zwischenzugは初級者ガイドで紹介した「タクティクス」の一種です。
なのでフォーク、ピンなどの基本的なタクティクスの親戚とも言えますね。

2. チェスの常識

Zwischenzugの特徴を話すためにはチェスの「常識」を知っておく必要があります。
チェスの常識はいろいろありますが、Shinがここで注目したいのが「駒を取られたら取り返す」というコンセプトです。
初級者ガイドで書いたように、チェスは数のゲームです。なので特に初級者にとって「駒を取られたら取り返す」という
コンセプトは非常に論理的であり、チェスを指す上での重要な方針といっても過言ではありません。


しかし、Zwischenzugはそこに隠された僅かな隙をついてプレーヤーに襲い掛かってきます。

3. Zwischenzugの特徴

Zwischenzugは「相手が予想していた手とかけ離れた手でスレットを作り、
相手にそのスレットを対処させた後にその予想されていた手を指して局面を良くする」タクティクスです。
この「予想していた手」とは、プレーヤーがチェスの常識(例えば前述の取られたら取り返す)に基づいて予想されたものです。
Shinがこのガイドのタイトルに使った落とし穴という表現は、Zwischenzugの「チェスの常識に隠された穴を利用して罠を仕掛ける」
特徴から来ています。常識から離れた手は相手の読み筋に入ってないことが多く見落としやすいし、
相手に精神的なダメージを与えることができるのもZwischenzugをマスターするメリットと言えます。
文字だけでは分かりにくいと思うので、ここでZwischenzugの例を一つ。次の一手#13からのポジションです。


黒は17.Nxc4と取ったところ。チェスの常識に従えば18.Bxc4と取り返す一手。
相手も当然それを予想していたはずです。しかしShinには絶好のZwischenzugがありました。


この後、いつでもビショップでルークを取り返せるポジションに持って行ったShinが主導権を握り、
試合は最後に華麗なタクティクスで幕を閉じました。詳細は
こちらでどうぞ。
相手は17.Bxc4と指していればこのZwischenzugを許すことがなかったのですが、
どちらで取っても取り合いで交換になるからこれでいいやと言ったチェスの常識を過信することで油断が生まれ、負けてしまいました。

4. 見落としやすいが故に鍛えにくい

Zwischenzugは非常に見落としやすいタクティクスです。例えば試合を終え、相手と二人で検討しても
見落としてしまったなんてことがよくあります。それ故に鍛えにくいのがZwischenzugをマスターした側にとっての長所、
マスターしていない側にとっての短所となります。
これはShinがまだレーティング1800台後半だった頃指した試合のワンシーン。相手はレーティング1800弱。


最終局面のルーク&ポーン対2ビショップは黒が優勢。この試合を楽に乗り越え、当時Shinのメインウエポンだった
Sicilian Sveshnikovバリエーションに自信がついたのを覚えています。
それから数年経ってShinは「The Sveshnikov Reloaded」という本を買い、読み進めていたらそこには驚愕の事実が。。。!?


20.Bc6+!!とチェックをかけるのが絶妙なZwischenzug。白としては黒クイーンにナイトを取られて、更にそのクイーンは守られていない
ので黒クイーンを取らない手などチェスの常識を考慮にいれればありえないはずです。更に黒が20.Ke7と指せばクイーンに紐がつく。。。
しかし、白が勝つには20.Bc6+と指すしかありませんでした。最終局面では白が何事もなくエクスチェンジ&ポーンアップとなります。
名もなきチェスおじさんはチェスの常識に従ったまでですが、またまたこれが裏目に出てしまいました。
試合終了後Shinはおじさんと少し検討しましたが二人ともまったく20.Bc6+に気付かず、Shinがそれを知ったのは数年後となりました。
今思えば試合後に軽くコンピューターに解析を頼めば見落とすこともなかったんですが、怠け者だったShinはそれをしませんでした。

5. 別の常識にも応用

Zwischenzugは別のチェスの常識に対しても機能します。今から紹介する試合では
「ピースを攻撃されたら逃げる、または攻撃している駒を取る」といった常識をターゲットにしています。
この試合は2010年の世界チーム選手権から、黒はアメリカのトッププレーヤーGM Hikaru Nakamuraです。
Shinがつけたコメントも合わせてどうぞ。


一試合にここまでZwischenzugが現れるのはかなり珍しいですが、Hikaruのダイナミックな棋風を表している好局だと思います。

6. まとめ

Zwischenzugは他のタクティクスと比べて試合で出てくる頻度は低いですが、非常に重要なものです。
このガイドで出てきた試合で負けた人たちの教訓を生かして、Zwischenzugの罠に引っかからないためのまとめを作ってみました。

  • チェスの常識を鵜呑みにしない。

  • 駒を取られたら、取り返す前に一呼吸置く。

  • 自分の指した手が相手の大駒に当たるからといって安心しない。

  • Zwischenzugが発生しないのはチェックをかけた時のみ。

  • 試合終了後には軽くコンピューターに解析を頼む。

  • これくらいでしょうか。最後の点だけ、注意することがあります。
    Shinは試合の検討をコンピューターに任せきるのはお勧めしません。自分の考える力を磨くために、
    自分でしっかり検討した後にコンピューターに見落としがないかさっと解析を頼みましょう。

    7. 最後に

    ここまで長々とお付き合いいただきありがとうございました。今回は少しレベルが高い内容だったと思いますが、
    その分局面図を増やして読みやすいように工夫してみました。楽しんでいただけたなら何よりです。
    前回と同じように「Zwischenzugなんて完全にマスターしてるぜ!」という人でも、知らない人にとって
    役に立つ内容だったと思うならこの記事をシェアしていただけるとうれしいです。
    次のガイドの予定はまだ決まっていませんが、またその日まで、Good Luck and Have Fun!!

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