〜Transpose: 水面下の陰謀〜

By Shin Uesugi

皆さんこんにちは!今回は主にオープニングで出現するトランスポーズ(transpose)について書いてみました。
このガイドは試合前のオープニングのプレパレーションの必要性が出てくる、中級者から
それ以上のトーナメントプレーヤーを対象としています。

~目次~

1. トランスポーズとは?

2. オープニングプレパレーション

3. トランスポーズとプレパレーション

4. トランスポーズで身を守る

5. 数は質を凌駕する!?

6. 駒の配置で見極める

7. 最後に

1. トランスポーズとは?

トランスポーズは「特定の局面に、違う手順で辿り着く」というコンセプトです。
この記事ではオープニングでのトランスポーズを扱います。なのでShinがここで書いているトランスポーズとは
「あるオープニングから、別のオープニング局面に辿り着く」というものになります。
まずはShinが実際に指した2試合のオープニングを見てみましょう。


どちらの試合も6手目での局面は同じです。しかし、そこに辿り着くまでの手順が違いますよね。
図1では普通にシシリアンのaccelerated dragon変化の局面になりましたが、
図2ではNf3から始まるレティ・オープニングからAccelerated Dragonの局面になりました。
つまりここでは、図2が「レティ・オープニングからシシリアン Accelerated Dragonにトランスポーズ」したことになります。

2. オープニングプレパレーション

レベルが上がってくると、試合前に対戦相手のオープニングを研究する「プレパレーション」が必要になってきます。
例えばShinは去年の冬休みに日本で二回トーナメントに出ましたが、警戒している相手の指すラインはもちろん
どのラインなら優勢に持っていけるかなども研究していました。2000オーバークラスの試合だと、
試合の75%ほどがプレパレーションで決まると言っても過言ではありません。
今年4月に現世界チャンピオンAnandのセコンド1を務めていたGM Nielsenが来日しレクチャーを行いましたが、
2によるとAnandのセコンドだった時は「このような作業(=プレパレーション)は3ヵ月前から始める」そうです。
これは、世界のトップレベルでのプレパレーションの重要さを物語っていると言えるでしょう。

1-セコンドとは大きなトーナメントやマッチへの準備を手伝うために、実際に戦うプレーヤーに雇われた人物。
2-これはNielsenのレクチャーに参加した川中氏のHP、今日はチェス曜日で左側のインデックスにある記事/Articleから見ることができます。

3. トランスポーズとプレパレーション

前の項ではプレパレーション(特にオープニング)のことを説明しました。ここでは今回のガイドのテーマであるトランスポーズと
プレパレーションの関係を説明します。プレパレーションとの関係を踏まえて簡単に言えば、トランスポーズとは
「プレパレーションを効果的にするツール」です。では何故トランスポーズはプレパレーションを効果的にしてくれるんでしょうか?
その理由は、トランスポーズを使うことにより相手を不慣れなポジションへと誘導することができるからです。
言葉だけでは分かりにくいかもしれないので、実際に例3を見て考えてみましょう。
この例では、Shinが黒番で対戦する相手のプレパレーションをしています。対戦相手は白では1.e4と指すプレーヤーです。
それに対してShinが使えるオープニングは二つ、SicilianのDragon変化とAccelerated Dragon変化です。
ここで相手の過去の試合をChess.comのストーカー機能4で見てみると、相手がどんな指し方をするのかが分かりました。


ここでShinはどちらのオープニングを使っても自分が指されたくないラインになってしまう、と困った状況になってしまいました。
そこで新しいオープニングを覚えるしかないのか、、、と落ち込むShinの頭にが。。。

そうだ!トランスポーズを使おう!!

 

シシリアンのDragon変化とAccelerated Dragon変化は駒の配置(後述)がよく似ています。
このことを利用して、Shinは翌日の試合にトランスポーズの罠を仕掛けました。翌日の試合のオープニングはこちら。


ここではShinはAccelerated Dragonから始めてDragon変化へとトランスポーズしました。トランスポーズのおかげで
Shinの苦手なオープニングを指されず、更に相手の不慣れな領域へと導けたことで最終的に勝利を収めることができました。
オープニングが分からない!と言った方でも、図3の相手が指したかったオープニングと図5の試合でのオープニングが違うことが分かると思います。
この試合を見ただけの人は試合前からこんな駆け引きがあったとは思わないでしょう。チェスの試合では表面には表れない、
「水面下」での戦いが頻繁に行われますが、試合前からこのような罠を仕掛けれるのはトランスポーズを駆使した
オープニングプレパレーションだけだろうということで、このガイドのタイトルとして使いました。

3-この例は実際に行われた試合ではありません。Shinがこの対戦相手と試合するとしたらどうするか、という架空の例です。
4-Chess.comのプレミアムメンバーは他のメンバーの試合を見たり、保存することができます。

4. トランスポーズで身を守る

Shinは今年の1月、冬休みに日本に一時帰国してトーナメントに参加しました。
その大会のために準備した白番のオープニングがこちら。当時日本のチェス界ではあまり知られていないものでした。


黒の駒が三つ効いてるd4にポーンを進めるというこの手に動揺したのか
対戦相手は5.Bxd4とビショップでこのポーンを取った後、ここから受けを間違えてShinが勝利しました。
ですが、相手はトランスポーズのコンセプトを使えば自分の知っているラインに持ち込むことができました。


ここではShinが指したあまり知られていないオープニングから、5.exd4と取ることにより
スコッチギャンビットという比較的有名なオープニングへとトランスポーズしています。
不慣れなオープニングを指された場合にトランスポーズを使い、
知っているオープニングへと戻すのは実戦的な戦法と言えます。

5. 数は質を凌駕する!?

トランスポーズは自分が知っているオープニングやポジションが多ければ多いほど強力なものになります。
3では簡単な例を挙げましたが、これはシシリアンDragonとAccelerated Dragonの両方を指しこなせる
プレーヤーだからこそできたトランスポーズです。つまり知っているオープニングが多ければ多いほど、トランスポーズで
相手の不慣れなオープニングへと誘導したり、4で説明した自分の知っているオープニングの領域へとポジションを戻すこともできます。
トランスポーズの観点から言えば一つのオープニングを極めるより、数種類のオープニングを広く浅く研究したほうがいいはずです。
例えば3では相手のオープニングが限定されていたため、トランスポーズをされた場合に対応できなくなってしまいました。

6. 駒の配置で見極める

トランスポーズを見極める重要なポイントが「駒の配置です」。これはポーンの形、ビショップやナイトが展開する場所など。。。
例えばDragonとAccelerated Dragonは両方ともビショップがフィアンケットされ、ナイトの展開場所も同じ(f6とc6)、
更にポーンの形はd7-d6と突いているかいないかの違いだけです。この要素が、3でのトランスポーズを可能としています。
他のオープニングも色々なトランスポーズの可能性を秘めています。他人が知らない、貴方だけのトランスポーズを見つける
オープニングの研究の仕方なども面白いかもしれませんね。

7. 最後に

今回のガイド、いかがでしたか?今までのガイドと違い、今回はトーナメントプレーヤー向けの
高いレベルの内容となってしまいましたが楽しんで読んでいただけたのなら何よりです。
このガイドの作成には少し手間がかかってしまい、週末の全日本快速選手権に間に合わず
「これを知っていればこの試合で勝てたのに〜」という方にはご迷惑をおかけしました(笑)。
トランスポーズなんてとっくの昔に知っていたという方でも、知らない人がこのガイドを見たら
役に立つと思ったのであれば下のツイートボタンからのシェアをお願いします。
では皆さん、トランスポーズを使う次の大会まで、Good Luck and Have Fun!!

P.S. このガイドのタイトルは、Shinがファンである名探偵コナンの劇場版第9弾のタイトル、「水平線上の陰謀」をもじったものでもありますw

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