By Shin Uesugi

皆さんこんばんは!年が明け、日本チェス界では
今週末の12日(日)に行われる新年チェス大会から
また一年、チェスのシーズンが始まります。

チェス大会で入賞するためには、大きなアプセットを
記録するよりも、大会を通して堅実にポイントを
積み重ねることが大事。そのためには、セオリー上
勝てる局面を確実に勝ちきり、引き分けに持ち込める
局面では道を踏み外さず、0.5ポイントをきっちり取ることが
重要です。というわけで、今回の記事では、大会で
出てくる可能性の高い、必修のセオリーを
紹介していきたいと思います。

1.スクエア法

まず最初に紹介するのは、キングでパスポーンを止める
ためのテクニックである、スクエア(四角)法です。
この局面で、黒はパスポーンを止めることができるでしょうか?



正解は、白番ならプロモーションが成功、
黒番ならプロモーションを止めることができます。
このことを一目で分かるために必要となるのが
スクエア法で、パスポーンを止める側のキングが
動いた後に、パスポーンの位置から導き出せる
スクエアの中に到達すれば、パスポーンを
止めることができる
というものです。



スクエアは、自分から見てポーンが何段目にあるのかを
見れば分かります。今回は、白のポーンが黒の
視点では5段目にあるので、隅に止めるべき
ポーンがある5x5の四角形がスクエアです。
もしこの局面が黒番なら、黒は矢印が示すようにKe4と指し、
スクエアの中に到達できるので、パスポーンを止められますよね。

持ち時間がたっぷりあるのなら、これを頭の中でキングと
ポーンを動かしながら考えることは可能です。しかし、
チェスの試合では5手先の局面がこれで、事前に
パスポーンを止められるか判断しないといけないと
いったことがよくあります。スクエア法を知らなければ、
必要以上の手を読まねばならず、判断ミスを犯しやすく
なってしまうでしょう。更に、日本の大会は持ち時間が少ない
場合が多く、スクエア法を知らなかったために
タイムプレッシャーの中で読み切ることができなかった
ということがないよう、スクエア法は必ずマスターしておきましょう!

2.フィリドール・ポジション

フィリドール・ポジションとは、ルークエンディングに出てくる
局面のひとつで、ポーン1個分不利なプレーヤーが何とか
引き分けに持ち込むことができるというものです。
フィリドール・ポジションの基本形はこちら。


黒番

このように、白の7段目に位置するルークが黒のキングを
8段目に押さえ込み、白のキングがプロモーションを
成功させるために自陣から離れている局面では、
相手キングの後ろ側からチェックをかけることが
有効な戦法です。しかし、ここでRd1+といきなり
チェックをかけてもKe6と避けられ、チェックが続かなく
なるため、黒は一工夫する必要があります。

1...Rh6!



白が黒をチェックメイトするためには、どうしてもキングを
6段目まで進めなければいけません。1...Rh6!は、
それを防ぐ手です。キングを6段目に進めなければ
局面の進展を望めないので、白はポーンを突く一手ですが。。。

2.e6 Rh1!



白の2.e6は黒ルークの6段目の利きを止め、次に
Kd6とする手を狙っていましたが、同時にキングの
絶好の逃げ場所であったe6のマスをポーンに
奪われてしまいます。それを見計らって、黒は
2...Rh1!と戻り、今度こそキングの後ろ側から
チェックをかけ続けることができるのが分かるでしょうか。

フィリドール・ポジションはルークエンディングの
基本中の基本とも呼べる局面ですが、これを
知らなかったせいでドローが取れなかったということが
ないように、しっかりと理解しておきましょう!

3.キング+ルーク VS キング+ビショップ

この形は、去年12月に行われた学生選手権で
2試合ほど見かけたもので、実際に発生する確率は
高いとは言えませんが、これがドローであるということを
知らなかったせいで負けてしまったというケースも
存在します。では、この局面をご覧ください。


白番

この局面では、白のキングは盤の隅に追い詰められ、
黒のキングは3段目まで迫ってきています。黒には
Rc1+などとしてチェックメイトを狙う手があり、白の
キングは風前の灯火のように見えますが。。。

1.Bg1!



ここでは、Bg1とg1-a7の斜線にビショップをキープする
手が好手。黒の頼みの綱であるRc1は、ステールメイト
なってしまうのがポイントです。


ビショップとキングが動けないため、ステールメイト!!

黒がhファイルのメイトを目指すため、キングをf1まで
動かしても、白はh2-b8の斜線にビショップを
キープすれば、同じようにステールメイトを利用して
ドローに持ち込むことができます。不利な局面では、
このようにステールメイトを使ってドローに持ち込める
ことがあるので、常にステールメイトの存在を
意識しながら指すことを心がけましょう。

4.キング+クイーン VS キング+2/7段目のポーン:a、hファイル編

エンドゲームでは、両者ともプロモーションを狙う、
ポーンレースなるものが存在します。そして、
ポーンレースではどちらかのポーンがクイーンに昇格し、
もう一方のポーンが後一手でクイーンに昇格すると
いった局面があるのも事実です。その局面で、クイーンを
持っている側が勝てるかどうかを知っているのかは、
トーナメントでの成績を大きく左右することでしょう。


白番。これは勝てる?

結論から言えば、これは勝てません。黒のポーンが昇格する
マス(ここではa1)に無事クイーンを送り込めない限り、
この局面はドローなのです。

実際に見てみましょう。白はクイーンでチェックをかけながら、
徐々に黒の駒達に近づくことはできますが。。。

1.Qf2+ Kb1
2.Qe1+ Kb2
3.Qb4+ Ka1
4.Qc3+ Kb1
5.Qb3+


ここで、黒が5...Kc1と指したらa2のポーンを
失うことになりますが、黒にはステールメイト
利用した、5...Ka1!という手が存在します。
白は、クイーンだけではポーンを取れないので、
どこかでキングを近付ける手を挟まなければ
いけないのですが、5...Ka1!の後にキングを動かすと。。。


5...Ka1! 6.Kd6と進んだ局面はステールメイト!!

このように、aやhファイルにいるポーンはキングを
盤の隅に逃げ込み、ステールメイトに持ち込む
可能性を秘めているため、ドローとなりやすいのが
ポイントです。では、次の局面ではどうでしょう?


白番。これはどうか?

この局面では、白は1.Qa1!!として勝つことができます。
黒は1...Kb3としてポーンを守ることはできますが、
その間に白はキングを寄せることができ、最終的に黒は
ポーンを守り切れません。このように、昇格できるマスに
クイーンを無事送り込めれば、クイーンを持っている側が
勝てるのです。


黒がKb3-a3としている間に、白はキングを寄せることができる。

5.キング+クイーン VS キング+2/7段目のポーン:c、fファイル編

では、cとfファイルにいるポーンではどうでしょう?
aやhファイルにいるポーンと違い、ステールメイトの
可能性がないように見えますが。。。


黒番。白が1.Qg3+と指した局面。

もしここで黒が1...Kf1と逃げた場合、白は
ステールメイトがないことを利用して2.Ke6と
キングを寄せ、それを繰り返すことによって勝てそうに
思えます。しかし、この局面で、黒には起死回生の
一手が存在します。

1... Kh1!!


クイーンがポーンを取ったらステールメイト!!

端のポーンではなくても、ステールメイトの可能性は
消えていません!もし白がここでf2のポーンを取ると、
ステールメイトになるのが分かるでしょうか。
この局面では、白は進展を望めないため、ドローになります。
cポーンでも、キングがh1に逃げるかa1に逃げるかの
違いだけなので、同じ結果になりますよね。

6.キング+クイーン VS キング+2/7段目のポーン:その他のファイル編

結論から言えば、クイーンを持っている側が一手目で
チェックをかけれるかポーンをピンすることができる
なら、クイーンを持っている側の勝ちとなります。
この2つの局面をご覧ください。



では、右の図の具体的な勝ち手順を見ていきましょう。

1.Qc2 Ke1
2.Qe4+ Kf1
3.Qf3+ Ke1
4.Qe3+



これが、このセオリーの鍵となるポジションです。
ポイントは、ここで黒がステールメイトを狙えないこと。
黒は4...Kf1とするとポーンを取られてしまうだけなので、
4...Kd1とする一手ですが、そこで白にキングを
近づける余裕が生まれます。これを繰り返すことで、
黒は最終的にポーンを守ることができなくなり、
白勝ちとなるでしょう。この記事で扱った4、5、6を、
表にしてまとめましたので、読者の皆さんのお役に立ててください。

クイーン VS 2/7段目のポーン 簡易表

ファイル

結果

テクニック

a

ドロー

キングをa1/a8に動かしてステールメイトを狙う!

b

勝ち

チェック/ピンで手を稼ぎ、キングを寄せる!

c

ドロー

キングをa1/a8に動かしてステールメイトを狙う!

d

勝ち

チェック/ピンで手を稼ぎ、キングを寄せる!

e

勝ち

チェック/ピンで手を稼ぎ、キングを寄せる!

f

ドロー

キングをh1/h8に動かしてステールメイトを狙う!

g

勝ち

チェック/ピンで手を稼ぎ、キングを寄せる!

h

ドロー

キングをh1/h8に動かしてステールメイトを狙う!

もし自分からポーンレースの変化に突入していくのなら、
事前に結果がどうなるかを知っておく必要があります。
直接盤上には現れなくても、水面下ではよく出てくる
はずなので、是非マスターしておきましょう!


この記事でShinがカバーした6つのセオリーは、
トーナメントプレーヤーにとって強力な武器となりえる
でしょう。トッププレーヤー同士の試合では、ダイナミックな
タクティクスなどといった派手な展開に目を奪われがちですが、
彼らは基本を完璧にマスターしており、ポイントの取りこぼしも
少ない故、大会では常に上位に顔を出しています。
どの競技でも同じことだと思いますが、基本を極めることが、
上達への近道なのでしょう。では皆さん、
今週末の新年チェス大会、Good Luck and Have Fun!!

ツイート

記事へ戻る

inserted by FC2 system