〜2013世界チェス選手権 序盤戦〜

By Shin Uesugi

皆さんこんにちは!世界チェス選手権は、トータル
12ゲームの内の4ゲームが終了し、序盤戦を終えた
形となりました。Shinは時差の関係で、どのゲームも
最初から最後まで通して見ることはできませんでしたが、
試合結果や内容などは毎日追っています。今回の
記事では、この重要なマッチの序盤戦の様子を、
簡単な解説を交えながら紹介していくつもりです。
今回のマッチの形式や、事前情報などはこの記事
詳しく書いているので、そちらも合わせてどうぞ。

GAME 1

まずは様子見か。。。

記念すべきマッチの初戦、白番の挑戦者カールセン
選んだのは、1.Nf3から始まるレティ・オープニング。
一昔前に、Shinが得意としていたオープニングでも
あります。王者アナンドが用いたグリュンフェルドに
対し、カールセンは二つのビショップをフィアンケット1する
作戦に出ました。これは白が積極的にアドバンテージを
取りにいく変化とは言いづらく、まずは様子見といった
ところでしょう。試合は中盤の入り口でポーン交換を
仕掛けたアナンドがやや指しやすくなり、白の
アドバンテージが完全に消滅。16手目でレペティションが
成立し、ドローとなりました。


初戦に黒番で難なくドローを取ったアナンドにとっては、
中々良い出だしだったと言えるでしょう。対して
カールセンは、初めての世界選手権や、敵地インドでの
開催ということで、相当な心理的プレッシャーがあると
思います。序盤を手堅く乗り切り、慣れてきた後半で
勝負を付けようという方針なのかもしれません。

1 - フィアンケットとは、b2/g2、またはb7/g7にビショップを配置して戦う戦法。
ビショップを攻守両方に使えるバランスの良い戦法だが、決定打に欠けることも。

GAME 2

まさかのカロカン・クラシカル

初戦は短手数ドローと、拍子抜けしてしまうような
試合内容に、不満の残る観戦勢は少なくなかったと
思います。そんな流れを断ち切るかのように放たれた
アナンドの攻撃的なオープニング、1.e4に、カールセンが
選択したのは、彼が過去に公式戦で6回しか
指したことのない、まさかのカロカン・ディフェンス!
非常に手堅く、日本ではIM-elect小島慎也さんが
愛用しているということで人気のあるオープニングです。

アナンドはこれに対し、8.Ne5とあまり研究された
ことのない変化を使い、カロカンの経験が浅い
カールセンを惑わせる作戦に。しかし、この試合での
カールセンのプレパレーションは、完全にアナンドの
上を行っていました。アナンドがh4のポーンを
差し出してでも攻めを狙う変化は想定の範囲内
だったようで、それに付き合わず、駒の展開を
完了して手堅く指し続けます。17.Qd5と
クイーン交換を持ち掛けられたアナンドは、
カールセンのプレパレーションにまんまとおびき
寄せられたことを悟り、アドバンテージがなくなるのを
分かりつつもクイーンを交換。そして25手目で
レペティションが成立し、この試合もドローになりました。


あまり経験のないカロカン・ディフェンスで、世界王者から
楽にドローを取れたことは、カールセンにとって非常に
喜ばしいことでしょう。自身の十八番とも言える
プレパレーションで圧倒されたアナンドにとっては、
悔いの残る試合内容だったと思います。
これでマッチは2分けのイーブン。短手数ドローが
続いたことで、観戦勢には少し物足りないかもしれませんね。

GAME 3

アナンドの逆襲

カールセンのカロカンを崩せなかったアナンドも、このまま
引き下がるわけにはいきません。レストデーを挟んだ3試合目、
アナンドはお世辞にも成功したとは言えないカールセンの
レティ・オープニングに、絶対的な自信を持つ
グリュンフェルドのセットアップで立ち向かいました。

カールセンは白番で優位に立つため、初戦で
使ったダブルフィアンケットではなく、3.c4と
中央に速攻をかけ、イングリッシュ・オープニングの
ような変化へとトランスポーズ2する作戦をチョイス。
しかしそこからの構想がおかしく、中盤の入り口あたりで
黒マスビショップを手放す展開になってしまいます。

そこから、アナンドの猛攻が始まりました。
22...Be5でカールセンのクイーンに対する攻撃を
開始し、23...h5から24...Be6と攻撃の手を
緩めず、カールセンのクイーンを激しく攻め立てます。
25手目の時点では、カールセンのクイーンはh1まで
追いやられ、完全に自宅警備員となってしまいました。


どうしてこうなった

しかし、カールセンはここから驚異の粘りを発揮します。
アナンドの緩手29...Bd4?!を正確に咎め、
ポーンダウンながら異色ビショップのエンディングへと
持ち込むことに成功。40手目にアナンドからオファーされた
ドローを蹴るというファイティングスピリットを
見せましたが、51手で両者のポーンが全てなくなり、
この試合もドローとなりました。


3連続ドローと、試合結果だけを追っている人に
とっては満足できない結果でしょうが、試合内容は
最初の2試合と比べて遥かに面白いものだったと思います。
カールセンは、ここまで白番で指した2試合とも
オープニングがうまく行っていない印象があり、
早い段階での調整が必要でしょう。

2 - トランスポーズとは、手順前後によって違う変化へと移行すること。詳しい記事はこちら

GAME 4

王者の前にそびえ立つベルリンの壁

王者アナンドは、再び1.e4と果敢に勝ちを目指します。
それに対し、カールセンは2試合目終了後の
プレパレーションを気にしたのか、今回はカロカン
ではなく、ベルリン・ディフェンスでアナンドの攻めを
封じ込める作戦に出ました。このオープニングは
ベルリンの壁の異名を取るほど堅いもので、この変化で
白が優位に立つのはほぼ不可能だろうという意見も。。。


元女子世界王者、GM Susan Polgarは、
ベルリンの壁を崩すことの難しさを知っている


試合は8手目にクイーンを交換するという、非常に速い
展開に。黒のダブルビショップがダブルポーンの弱さを
補う、ベルリンならではの局面になりましたが、
アナンドが12.Bg5からダブルビショップの片翼を
奪うことに成功。しかし、18.Ne2とa2のポーンの
守りを外す手がまずく、カールセンはそれを取ることで
ポーンアップに。アナンドは、単騎で自陣に
乗り込んできたビショップを閉じ込めようとしますが、
カールセンの19...c4!が間に合い、まんまと
包囲網をすり抜けられてしまいます。

3試合目とは打って変わって、今度はアナンドが守勢に
立たされました。カールセンは二つ目のポーンを掠め取り、
このまま押し切るかと思われましたが、アナンドも負けては
いません。g4のポーンを囮にし、キングを中央に持ってきたと
思いきや、38.Nd4!とcファイルのピンを利用したタクティクスで
ポーンを取り返します。そして最大の切り札、eファイルの
パスポーンを使ってカールセンを牽制し、64手という激戦の末、
ドローを勝ち取りました。


この試合のみ、早起きしたShinは試合終了後の
インタビューを見ることができたのですが、負けていても
おかしくない試合を拾ったばかりなのに余裕たっぷりの
アナンドに比べ、カールセンの顔には覇気がなく、
かなり疲れているように見えました。天才カールセンと
言えども所詮人の子。。。やはり世界選手権には、他の
大会とは比べものにならないほどの重圧があるのでしょう。

この4試合で、世界選手権の序盤戦は終了となりました。
中盤戦に入る前のレストデーでどれだけ調整できるかが、
このマッチを制する鍵となるでしょう。ここまで全試合が
ドローと、盛り上がりに欠けているように見えますが、
試合をする度に内容が面白くなってきているのは事実です。
Shinを含む熱心な観戦勢は、今後もこの
チェス界最重要マッチから目が離せません!

日本語の放送

ちなみに、世界選手権はいろいろなところで
ライブ中継が行われていますが、日本では
ニコニコ生放送主のぽんとさんが
時間の都合のつく限り、解説をしながら
マッチの様子を放送してくれています。Shinは
今朝放送を見る機会があったのですが、コメントを
見る限りガチ勢が多数視聴しているようで、
ぽんとさんの解説や、コメントを見るだけでも
十分勉強になるでしょう。Shinの知る限りでは、
世界選手権を解説している日本唯一の放送なので、
一人で見るのが寂しいと言った方にはこの放送を
視聴することを強く勧めます。放送状況はツイッターの方で
告知しているようなので、そちらもチェックしてみましょう。

世界選手権序盤戦の考察は、この辺りで終わりに
しようと思います。Game5-8の中盤戦が終わった後にも、
また何か書くかもしれません。では皆さん、次の記事まで、
Good Luck and Have Fun!!

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